開発の経緯
アリッサ®配合錠は、富士製薬工業株式会社がEstetra社(旧:Mithra社)より導入した低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)であり、1錠中にエステトロール水和物(E4)15mg及びドロスピレノン(DRSP)3mgを含有する実薬錠24錠と主成分を含有しないプラセボ錠4錠から成る28錠をPTPシートに包装した月経困難症治療剤です。
月経困難症は月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状であり、下腹痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、いらいら、下痢及び憂うつの順に多くみられます1)。月経困難症の発生には子宮内膜で産生されるプロスタグランジンの関与が大きいので、プロスタグランジン合成阻害薬である非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)及びLEPも有効であると示されています1)。
本剤に使用されているE4は胎児の肝臓で生成される天然型エストロゲンで、エストロゲン受容体(ER)αに対してERβの4~5倍の選択性があります。さらに、E4は核型ERαに対してはアゴニストとして作用しますが2)、膜型ERαに対してはアンタゴニストとして作用することが明らかとなっています3,4)。
器質性月経困難症の原疾患である子宮内膜症は、病態生理学的にはERβの過剰発現による局所的高エストロゲン状態と解され、子宮内膜症細胞の増殖、腫瘍壊死因子α依存性アポトーシス抑制、シクロオキシゲナーゼ2誘導によるプロスタグランジン産生亢進があります5-8)。また、ERβの過剰発現はプロゲステロン受容体Bの発現を抑制し、E2からエストロン(E1)への代謝に関わる17β-ヒドロキシステロイドデハイドロゲナーゼの産生抑制やアロマターゼの産生を増やすことにより、局所的高エストロゲン状態を更に悪化させます5,7-11)。また、E4はヒト子宮内膜症細胞株において、プロゲステロン受容体の蛋白量を増加させ、ヒト子宮内膜症間質細胞株において、プロゲステロンによるプロゲステロン応答性遺伝子発現を促進しました12)。以上のことから、ERαに高い結合選択性を示すE4は子宮内膜症への悪影響が少ないことが期待できます。
本剤に使用されているDRSPは抗ミネラルコルチコイド作用及び抗アンドロゲン作用を併せ持つ合成プロゲスチンであり、月経困難症の効能効果を有するDRSP含有ホルモン配合剤として国内で販売されています。
LEPの主要なリスクとして静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが挙げられます。本邦で上市されているLEPは全てエチニルエストラジオール(EE)を含有しており、凝固線溶系の変化を来たすと考えられています1)。
E4はLEPの重篤な副作用であるVTEリスクが低減されるなど、合成エストロゲン誘導体を含有する既存のLEPにないメリットが期待されています。本剤の初期開発段階において、外国人の健常者を対象とした種々のE4とプロゲスチンとの併用試験13,14)や、日本人子宮内膜症患者を対象とした試験15)で、本剤の血液凝固線溶系関連パラメータへの影響が検討されています。
本剤は、Estetra社(旧:Mithra社)によって、経口避妊薬の適応として開発され、2020年3月にカナダにおいて初めて承認されました※。本邦では、経口避妊薬はその副効能として月経困難症治療薬として使用できるとのガイドライン1)の記載から、本邦で既に上市されている他のLEPと同様に、月経困難症への効果が期待できます。富士製薬工業株式会社は本剤を月経困難症治療剤として開発し、2024年9月に“月経困難症”の効能又は効果で〈アリッサ®配合錠〉として承認されました。
※本邦では「避妊」の適応を有していません。
1)公益社団法人 日本産科婦人科学会, 一般社団法人 日本女性医学学会. OC・LEPガイドライン2020年度版
2)Benoit T, et al.: Am J Pathol. 2017; 187(11): 2499-2507.
3)Gérard C, et al.: Oncotarget. 2015; 6(19): 17621-17636.
4)Abot A, et al.: EMBO Mol Med. 2014; 6(10): 1328-1346.
5)Bulun SE, et al.: Semin Reprod Med. 2010; 28(1): 36-43.
6)Yu K, et al.: Front Endocrinol(Lausanne). 2022; 13: 827724.
7)Bulun SE, et al.: Endocr Rev. 2019; 40(4): 1048-1079.
8)Vercellini P, et al.: Nat Rev Endocrinol. 2014; 10(5): 261-275.
9)Bulun SE, et al.: Semin Reprod Med. 2010; 28(1): 44-50.
10)Bulun SE, et al.: Mol Cell Endocrinol. 2006; 248(1-2): 94-103.
11)Burney RO, et al.: Endocrinology. 2007; 148(8): 3814-3826.
12)Patiño-García D, et al.: Biomedicines. 2023; 11(4): 1169.(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
13)Mawet M, et al.: Eur J Contracept Reprod Health Care. 2015; 20(6): 463-475.
14)Douxfils J, et al.: Contraception. 2020; 102(6): 396-402.
15)社内資料:子宮内膜症患者を対象とした国内第II相試験/FSN-013P-05(承認時評価資料)